HEPの概念図の説明
図中の上部左右の図で,縦軸はハビタットとしての価値を数量化したHU(ハビタットユニット),横軸はターゲット・イヤー(年)である。HUは,ハビタットとしての質を数値化したHSI(ハビタット適性指標)に面積を乗じた数値である。
左上の図は,開発サイトにおける,提案した開発事業がない場合(=ベースライン:PA1)と同事業がある場合(PA2)のHUの経年変化を示している。一方,右上の図は,代償ミティゲーション・サイトにおける,提案した開発事業の許認可条件として義務付けられた代償ミティゲーションがある場合(MP2)と同代償ミティゲーションがない場合(MP1)のHUの経年変化を示している。ここで,開発サイトのPA1からPA2を引いた斜線で示した部分は開発事業によって失われるハビタットの価値を数量化したものであり,これを「Net
loss」と呼んでいる。一方,代償ミティゲーション・サイトのMP2からMP1を引いた斜線で示した部分は代償ミティゲーションによって得られるハビタットの価値を数量化したものであり,これを「Net
gain」と呼んでいる。
結局,HEPは,開発によって失われるハビタットの価値と代償ミティゲーションによって得られるハビタットの価値を「質」,「時間」及び「空間」の観点から数量化することで,ハビタットの損得の比較考量を可能にし,開発と保全のあり方についての議論に対して,わかりやすい叩き台を提供しているのである。
最終的には法の抑止力により,大規模な代償ミティゲーションが義務付けられるような生態系破壊型の開発計画が事業者サイドで最初から回避されることが,代償ミティゲーションをHEPのような定量的生態系評価ツールで明示することの本来的な意義である(田中章,
1998)。
HEPに関する田中章の著作・論文
- 田中章(2012)生物多様性保全と定量評価.p18-22,「環境アセスメント学の基礎」,恒星社厚生閣 p.222 (外部リンク)
- 田中章(2012)HEP入門(新装版) ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル― Theory and practices for Habitat Evaluation Procedure(HEP) in Japan.朝倉書店 p.280 (外部リンク)
- 田中章(2009)生物多様性オフセットと評価方法.環境監査研究会18周年記念シンポジウム基調講演論文,1-15.
- 野生生物保全技術 第二版,田中章ほか22名,2007,p.272、275-290,海游舎(外部リンク)
- 矢代幸太郎,田中章(2011)東京湾横浜沿岸域におけるメバル稚魚・幼魚ハビタット適性指数(HSI)モデルによるアマモ場復元の評価,環境アセスメント学会誌,Vol.9,No.2,p43-50.
- 八木裕人、松川隼也、田中章、新井聖司、海老原学、浦瀬勇真(2011)HEPの概念を用いたアユの生息適性環境マップの作成 ‐球磨川水系荒瀬ダムに着目して‐.環境アセスメント学会2011年度研究発表会要旨集,
- 藤瀬弘昭,田中章(2010)簡易的HEPによる屋上緑化の生物多様性評価手法の開発.環境アセスメント学会2010年度研究発表会要旨集,p57-62.
- 八木裕人,田中章(2010)生態系アセスメントにおけるGIS利用について−神奈川県横浜市栄区上郷町HEP事業をケーススタディとして−.環境アセスメント学会2010年度研究発表会要旨集,p47-50.
- 藤瀬弘昭,石井武志,高崎大輔,田中章,梶川昭則,尾畑洋一郎,三田豊(2008)キャンパス屋上における湿地ビオトープパッケージに関する研究‐ビオトープパッケージによる生物やそれを取り巻く環境への影響‐.平成20年度日本造園学会全国大会分科会 生態工学企画展示.
- HEP入門 ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル― Theory and practices for Habitat Evaluation Procedure(HEP) in Japan,単著,2006,266pp,朝倉書店 (外部リンク)
- 田中章(2008) 人間活動が野生生物の生息地に及ぼす影響を定量的に評価するHEP〜 新たな局面を迎えた生物多様性保全における環境アセスメント〜. 三井住友フィナンシャルグループ 環境情報誌「Safe」,Vol.72,10-11.
- 田中章,大澤啓志,吉沢麻衣子(2008)環境アセスメントにおける日本初のHEP適用事例.ランドスケープ研究,Vol.71 No.5,543-548.
- 田中章(2008)順応的管理による人工干潟造成のためのHEP適用に関する研究 -尾道糸崎港の4つの干潟におけるケーススタディ.武蔵工業大学環境情報学部紀要,第9号,50-62.
- 中屋紀子,田中章(2006)米国マティリハダム撤去におけるHEP適用事例の分析.環境アセスメント学会2006年度研究発表会要旨集,p97-102.
- 久喜伸晃,田中章(2006)日本におけるHEPの実施事例およびHSIモデルの蓄積状況に関する研究.環境アセスメント学会2006年度研究発表会要旨集,p25-29.
- 田中章(2006)生態系アセスメントの展開―撤去と復元の日韓米事例から見た課題.日韓ワークショップ撤去と復元の環境アセスメント―日本橋と清渓川 日韓の事例から―.p36-40
- 久喜伸晃,田中章,村上和男,明瀬一行,市村康(2005)アサリのHSIモデルの構築およびHEPによる人工干潟の評価.環境アセスメント学会2005年度研究発表会要旨集,p109-114.
- 村上和男,田中章,久喜伸晃,林永悟,明瀬一行,宮本由郎,市村康(2005)HSIモデルの構築と干潟の生物生息環境評価.海岸工学論文集,Vol.52,p1146-1150.
- 久喜伸晃,吉沢麻衣子,田中章(2004)HSIモデルの傾向と今後の課題.環境アセスメント学会2004年度研究発表会要旨集,p45-50.
- 「生き物がすめる環境はどのようにはかるの?」,p.175-178,武蔵工業大学編,なんでも測定団が行く,2004,講談社
- 上杉章雄,雨嶋克憲,岡田圭司,栗原彰子,小松裕幸,松岡明彦,諸藤聡子,伴武彦,田中章(2004)トウキョウサンショウウオのハビタット適性指数(HSI)モデル構築の取り組み―実測値を用いた妥当性検証と仮想事業への適用について―.環境アセスメント学会2004年度研究発表会要旨集,p63-68.
- 田中章(2004)ハビタット評価手続き.地理情報システム学会 編集,地理情報科学事典.朝倉書店,p158-161.
- 田中章(2003)ハビタットの評価と復元 -代償ミティゲーションを評価するHEP-.日本生態学会関東地区会会報,51,p25-33.
- 田中章,畠瀬頼子(2003)生態系アセスメントにおけるハビタットモデル及び定量評価の展開.環境アセスメント学会2003年度研究発表会要旨集,p141-142.
- 田中章(2003)自然消失と自然復元を時空間の軸で評価する -代償ミティゲーションとその評価手法HEP-.武蔵工業大学環境情報学部紀要第四号,p62-73.
- 雨嶋克憲,小松祐幸,伴武彦,諸藤聡子,田中章 (2002)トウキョウサンショウウオのハビタット適正指数(HSI)モデル(案)の作成とHEPのケーススタディについて.環境アセスメント学会2002年度研究発表会論文要旨集,p136-144.
- 田中章(2002)米国のハビタット評価手続き"HEP"誕生の法的背景.環境情報科学,vol.31,p37-42.
- 田中章(2002)生態系のレストレーション 何をもって生態系を復元したといえるのか?生態系復元の目標設定とハビタット評価手続きHEPについて.ランドスケープ研究,vol.65,No.4,p282-285.
- 田中章(2000)環境アセスメントにおける定量的生態系評価手法−代償ミティゲーションとの関係において−.第4回国際影響評価学会日本支部研究発表会論文集−干潟の保全と環境アセスメント−,p15-20.
- 田中章(2000)新しい評価領域−ミティゲーションと生態系評価.環境科学会会誌,13(2),p280-281.
- 田中章 (1999)新しい評価領域 ミティゲーションと生態系評価.社団法人環境科学会1999年会 一般講演・シンポジウムプログラム,p150-151.
- 田中章(1998)生態系評価システムとしてのHEP.島津康男編,「環境アセスメント−ここが変わる」,環境技術学会,p81-96.