写真説明
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カリフォルニア州ウェスト・サクラメント市のサクラメント河沿いのリゾート型住宅地開発に伴い環境アセスメント調査を実施したところ、開発サイトは写真DのValley
elderberry longhorn beetle(VELB) (Desmocerus californicus dimorphus)を含む複数の保全すべき種(写真EFG)の生息地であることが判明した。開発サイトは、州都である隣のサクラメント市に比べて都市基盤整備が遅れてスラム化していた場所であり、ウェスト・サクラメント市当局も政策的に開発を誘致したいという背景があったために、民間事業ではあったが、計画は「回避」されずに実施されることになった。ミティゲーションとしては、VELBが営巣するElderberryの木を近隣公園に移植するなどの「最小化」ミティゲーションと併せて、「回避」も「最小化」もできない生態系への悪影響(即ち、habitatsの消失)については、それに見合う「代償」ミティゲーションを実施することが義務付けられた。(「回避→最小化→代償」というミティゲーションの種類と優先順位は、1997年に公布されたわが国の環境影響評価法にも導入されている。)
開発サイトで消失する、VELBのhabitatsを含む保全すべき種の生息地は16.8haであったが、結局、58.7ha以上の、開発サイト以外での新たな生息地の復元・創造が事業者に義務付けられた。今回、紹介した50haの代償ミティゲーション事業は、58.7haには不足しているが、実は、今回、紹介できなかったが、もうひとつの代償ミティゲーション事業として51ha分の生息地復元・創造事業があり、全部で101haもの代償ミティゲーションを実施している。
このような生息地の損益計算は、米国では通常、HEP (Habitat Evaluation Procedure )などの定量的生態系評価手法によって行われている。
ところで、単純に失われる面積と新たに復元・創造する面積とを比較するだけならば、16.8haの代償だけでよいことになる。しかし、実際には、人工的に生態系の復元を早めたとしても開発サイトの生息地の消失と代償ミティゲーションサイトの生息地の誕生とは同じ時期には実現できない(これを可能にしたのがミティゲーション・バンキング制度)。つまり、時間の損失分をより広い空間確保によって補うという考え方である。これを「no
net loss」政策と呼び、ある保全すべき生態系を破壊せざるを得ない場合、その生態系の「質×空間×時間」という総量について維持するというものである。HEPはそのための評価手法である。
さて、今回、紹介した代償ミティゲーションは、開発サイトと同じサクラメント河沿いの50haのトマト畑を1989年に確保し、そこに三日月湖を1991年に造成し、必要な樹木や草本類を植栽し、育てることで、開発サイトで失われた生息地を代償するというものであった。写真でみるように比較的、短期で植生などが回復したが、これは灌漑、雑草除去、追加植栽などのきわめて集約的なメンテナンスが行われたことによる。筆者は、本事業に環境アセスメントとミティゲーションのコンサルタントとして従事した。なお、詳細は関連する拙稿を参照していただければ幸いである。